レプリカだって、恋をする。
ストーリー概要
『レプリカだって、恋をする。』(原作:榛名丼、漫画:花田ももせ、キャラクターデザイン:raemz)は、電撃コミックスNEXTから刊行されたSF青春ラブストーリーです。
主人公は「愛川素直」という少女の"模造品(レプリカ)"。7歳の頃に本物の素直が生み出した分身——セカンドとして、誰にもニセモノだと気づかれないまま学校に通い、テストを受け、友達と過ごし、すべてを本物の素直に捧げるために存在してきました。朝ご飯を食べたことがない。誕生日ケーキも知らない。自分の名前すら持たない。そんな彼女が文芸部で「真田秋也」という男子生徒と出会います。
ところがこの真田くん、実は本物の真田秋也ではなく——彼もまた、レプリカだった。
お互いがレプリカであることを知った二人は、「ナオ」と「アキ」という自分たちだけの名前で呼び合うようになり、動物園デートや学校サボりといった"初めて"を重ねていきます。その中で芽生える感情は、果たしてレプリカにも許されるものなのか? 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカムパネルラの関係を重ね合わせながら、物語は切実な問いを投げかけます。
レビュー
いやあ、これはやられました。正直に言います。
表紙の透明感ある少女のイラストを見て、「爽やかな青春モノかな」くらいの気持ちで読み始めたんですよ。そしたら冒頭から「私は愛川素直という少女の模造品である」ですよ。いきなりパンチが来る。しかもそこから日常描写がめちゃくちゃ丁寧に積み重ねられていくんですが、その一つ一つが「この子は人間じゃない」という前提の上に成り立っているから、朝食のメニューを読み上げるシーンですら切ない。「血が出るだけで痛みなんか感じなくて」って——おい、序盤からそれ言うか!!
で、文芸部のシーンがまたいいんですよ。眼鏡のりっちゃんが扇風機の故障にキレたり、ナオ先輩が牡蠣を潜って獲ると宣言したり(旬は冬だよ!!)、日常パートのテンポが抜群に心地いい。このコメディと重いテーマの緩急が本作の真骨頂です。動物園デートで「19万7850円あるから!」と大声で叫んで真田くんに注意されるナオちゃん、かわいすぎるだろ……。
そして真田くんが文芸部に入部届を出すシーン。部員2人の弱小部活に入部希望者が来て大騒ぎになるくだり、微笑ましいんだけど、後から考えると彼もレプリカだったわけで。バスケで足を潰されて引きこもっていた本物の秋也の代わりに学校に来ていた——この構造が明かされた瞬間の衝撃たるや。「傷つけられたのは俺じゃないから」というセリフの意味が一気に変わるんですよね。
花田ももせ先生の作画についても触れておきたいのですが、感情表現の演出力が素晴らしいです。特にモノローグと日常シーンの切り替えで、同じページ内に明るいコマと真っ黒な背景のコマが共存する構成は、レプリカという存在の二面性を視覚的に体現しています。渦巻き状の目で描かれる「ただのレプリカのくせに」のシーンは、ページをめくる手が止まりました。
キャラクター分析
ナオ(セカンド/レプリカ) ——本作最大の魅力は間違いなくこの子です。自分の名前を持たず、素直のために全てを捧げてきた献身的な存在でありながら、動物園でレッサーパンダに「うわあああ!かわいい!」と大興奮する無邪気さも持ち合わせている。「一生ここにいたい」という言葉の重みが、レプリカという設定を知っているとまるで違って聞こえます。自分を「セカンド(二番目)」と名付けた彼女の静かな決意には胸を打たれます。
アキ(真田秋也のレプリカ) ——さりげない優しさの塊。信用金庫で硬貨を両替してあげたり、壊れた扇風機の代わりを持ってきたり。でも「だからもうすぐ俺も」という不穏な言葉の先にあるものが気になって仕方ない……。
りっちゃん(広中律子) ——文芸部の眼鏡っ子。「牡蠣とYシャツと律子」というコンビ名を提案する天然ボケっぷりが最高です。シリアスな本筋の中で、彼女の存在がどれだけ救いになっているか。
印象的なシーン
個人的に一番刺さったのは、ナオが「連れてきてくれてありがとう、こんなに楽しい日は生まれて初めて」と言うシーンです。レプリカとして生まれ、自分だけの思い出を一つも持たなかった子が、初めて「自分のための一日」を過ごした。「あ、これだ」と何かを悟る瞬間の表情——花田先生、ここの目の描き方が本当に美しい。
そしてラスト付近、「お前は愛川素直の身代わりなのか?」とアキに問い詰められるシーン。ハーフアップにし忘れたという些細なミスから正体がバレそうになる緊張感。ここのコマ割り、二人の顔が至近距離で対峙する大ゴマの迫力がすごいです。
扇風機の供養シーンも忘れられません(笑)。「南無」って念仏唱えて手を合わせるの、シュールすぎるでしょ!!
総合レビュー
『レプリカだって、恋をする。』は、SF的な設定を土台にしながらも、その本質は「自分だけの感情を持つことは許されるのか」という普遍的な問いを描いた青春ラブストーリーです。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』やドッペルゲンガー伝説、夏目漱石の『こころ』といった文学的モチーフを巧みに織り込みながら、決して衒学的にならず、あくまでキャラクターの感情に寄り添った語り口が見事。
作画面では、raemz氏のキャラクターデザインを活かした花田ももせ先生の繊細な表情描写が光ります。特に目の描き分け——希望に輝く瞳と、虚ろに沈む瞳の対比が、レプリカという存在のアイデンティティを雄弁に物語っています。
コメディとシリアスの配分も絶妙で、扇風機ネタや動物園デートの微笑ましさがあるからこそ、「やめてよ!私の人生を返して!」という叫びが突き刺さる。
ジブリで言えば(なんでジブリ?って自分でも思うけど)、『千と千尋の神隠し』的な「名前を奪われた者が自分を取り戻す物語」に近いかもしれません。
分身SFファンだけでなく、『銀河鉄道の夜』や『こころ』が好きな文学寄りの読者、あるいは「存在とは何か」を問うSF青春モノが好きな方にぜひおすすめしたい一冊です。第1巻で張られた伏線——特にアキの「だからもうすぐ俺も」の続きが気になりすぎて、2巻を買わずにはいられません!!
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